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神戸地方裁判所伊丹支部 昭和49年(ワ)159号 判決

原告

阪急電鉄株式会社

右代表者

森薫

右訴訟代理人

本田由雄

外一名

被告

下坂源三郎

主文

原告の訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実および理由

原告訴訟代理人は、「被告は、宝塚市平井五丁目九番七号(旧番地、同市平井字下の段二一番地の二)訴外下坂要三郎に対し、別紙目録記載の土地につき、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

(一)  別紙目録記載の土地(以下説明の便宜上B土地という)並びに宝塚市平井七丁目二五番地(旧地番、同市平井字南土助八番地の二)田九二八m2(九畝二歩)(以下説明の便宜上A土地という)は、以前登記簿上の所有名義人は被告であり実質上の所有者は請求の趣旨記載の訴外下坂要三郎であつた。

(二)  原告はその事業の遂行上、右A土地を取得する必要が生じたため、要三郎とその買収交渉を重ねたが昭和四四年七月頃、原告は要三郎からA土地を買受けその所有権を取得したが、前項に述べたとおり、実質的所有権者と登記簿上の所有権者が異つていたため登記手続の関係上原告とA土地の登記名義人である被告との間において売買契約書を作成のうえ被告からその所有権移転登記手続を受けたものである。

(三)  右売買契約に関連し、原告と要三郎との間において、A土地同様B土地の登記名義人は被告であるが、実質上の所有者は要三郎であるからB土地に設定されている根抵当権、所有権移転請求権仮登記を原告の費用と責任において、抹消したうえ、登記名義を被告より要三郎にする手続を行うこととする旨の附随契約を締結していた。

(四)  そこで右附随契約に基き、その頃原告と被告との間に大要つぎのとおりの契約を締結した。

(イ)  A及びB土地の登記名義人は被告であるが、実質上の所有権者は要三郎であることを被告において確認すること。

(ロ)  右両土地に設定していた根抵当権及び所有権移転請求権保全仮登記は原告の費用と責任において抹消すること。

(ハ)  (イ)により、B土地の実質的所有権者は要三郎であるから被告は要三郎に対し、その所有権移転登認手続をするものとし、その書類交付等に協力すること。

(ニ)  被告は原告又は要三郎に対し、右移転登記に関し、名目の如何を問わず金員その他一切の請求をしないこと。

(五)  前項の契約に基き、原告はその費用と責任において、昭和四八年四月頃A土地は勿論B土地に設定されていた根抵当権並びに所有権移転請求権保全仮登記の抹消手続をしたうえ、約旨に基きB土地について被告から要三郎に対する所有権移転登記手続に要する書面を作成のうえ、その捺印並びに印鑑証明書の交付等を求めたところ、被告は不当にも言を左右にしてこれに応じないものである。

(六)  一方要三郎は原告に対し、前記第三項の附随契約に基きB土地の移転登記を早急に履行すべき旨を請求しているので、原告は再三再四にわたりその履行を請求しているが、被告は依然これに応じないので、請求の趣旨記載の判決を求めるため本訴に及んだものである。

被告は適式の呼出しを受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。

よつて審案する。

以上の事実関係にしたがえば、本件土地(B土地)の所有者が訴外下坂要三郎であるのみならず、原告が主張する原・被告間の契約も右要三郎の真正な登記名義の回復を目的としてなされた第三者のためにする契約であると解され、これについて、第三者たる右要三郎が受益の意思表示をしたものと認められるところであるから、諾約者である被告に対する本件土地の登記請求権は、物権的、債権的のいずれにせよ右訴外要三郎に帰属し、訴訟上も、同訴外人がこれについて当事者としての適格を有するとみられるところである。

もつとも、原告は、本訴において、第三者のためにする契約における要約者として、諾約者たる被告に対し、直接に、右訴外人のための真正な登記名義の回復を目的とする登記を求める適格を前提としているとみられるので検討をすすめるに、第三者のためにする契約における要約者は、第三者が受益の意思表示をした後にあつては、訴訟外で諾約者に対し、第三者への義務履行ないしその不履行の場合の損害賠償をなすように請求することができるとしても、そもそも諾約者の第三者への給付そのものと要約者自身への給付とはその内容を異にし、諾約者の第三者への給付があれば、これがひいては諾約者の要約者に対する給付義務の履行となり、要約者の諾約者に対する法律上の地位が目的の到達により消滅するに過ぎない関係と解すべきであるから、訴訟上も、要約者たる原告としては、諾約者たる被告に対し、右のような契約上の地位の存在確認を求めるべく(これより、諾約者の第三者への給付をまつて、自らも諾約者からの給付を受けることとなる)、この限りで当事者としての適格を肯定し得るにとどまり、この限度をこえ、実体的な特段の権利関係によることもなく、諾約者たる被告に対し、訴訟上、第三者に対する給付を直接求めることはできないと解するのが相当であり、この理は諾約者に対する登記請求権が問題とされている場合にあつても変更がないと考えられる。

そしてまた、右のように解さないときは、登記請求権をめぐる、第三者との関係における二重訴訟の生起、要約者・諾約者間の実体判決の既判力・執行力の範囲等についても救い難い混乱を生ずることとなるであろう。

してみると、原告の前提とする見解は採用することができず、結局、本件訴えは、不適法として却下を免れない。よつて、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。 (稲垣喬)

不動産の表示〈省略〉

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